この本を見つけたのは大学の図書館にある新刊コーナーだった。すぐに借りて読んでいくと期待通りの記述があった。早速、岩波書店から著者につないでもらい、シンポジウムの翌々日に六本木でお目にかかる約束をした。数時間だったが、ありとあらゆるアーカイブを調べた藤森さんとの対話はとても楽しかった。
この本には、ニューカレドニアから外国人義勇兵としてマルセイユに渡ったものの、すぐに退役し、そのままパリに住みついた日本人が2名紹介されていた。パリにいた元ニューカレドニア日本人移民が戦争中に敵性外国人として抑留されていたことを、あたりまえのことであるにもかかわらず、私は初めて認識した。そして、この滋賀県出身の2人の足跡に加え、本には書かれなかったもうひとり(熊本県出身の元ニューカレドニア出稼ぎ移民。フランスへの移動手段は不明)についても教えてもらった。驚いたことにこの人はニューカレドニアからパリに行き、パリを脱出してベルリンからアメリカに渡り亡くなった。ヴィッシー政権からドゴール政権にかわった激動の時代に、こんなに逞しく海を超えて移動し、生きぬいた元出稼ぎ移民がいたことには驚くばかりだ。
「パリの日本人=画家たち」という単純な構図だけではないことを、藤森さんは示してくれているのだ。このようなマイナーな歴史を語り合える人はそうそういない。
*外国人義勇兵に応募した日本人のほとんどはフランスの船ですぐに日本に送還された。実際に第一次世界大戦に参戦したのはごく数名である。
*参照
「『大森鉄之助の物語』滋賀から仏領ニューカレドニア、そしてパリへ」『成安造形大学附属近江学研究所紀要第6号』pp59-70
https://omigaku.org/fundamental/wp-content/uploads/2022/03/kiyou6_04_tsuda.pdf
「第一次世界大戦における仏領ニューカレドニアの日本人義勇兵」『成安造形大学紀要第6号』pp151~160
https://www.seian.ac.jp/assets/pdf/about/public_info/kiyo_06_s.pdf