ヌメア市立博物館で「Sakura ga saita」という個展を8月4日まで開催中している。国民読本のなかで「さくら読本」と呼ばれた尋常小学校の教科書の最初の一文をタイトルに、Les Japonais à Nouméa avant la guerre du Pacifique (太平洋戦争以前のヌメアにいた日本人)という副題をつけた展覧会だ。このタイトル、ニューカレドニアは日本語教育がとても熱心なので、中学生や高校生が理解するだろう、、、というとても楽観的な理由で決めた。
この「さくら」、もちろん単純に国花だとか、有名な日本の美しい花という理由で使っているわけではない。明治以降、日本中に植栽されたソメイヨシノというクローン桜が、一気に咲いて散るという独特の特性から主に「特攻隊」をはじめ、兵士の潔い美しい死を象徴するようになったことをふまえている。そこから、今回の展覧会では、ヌメアの街に花開いた日本人コミュニティが、戦争によって一斉に散ったことを暗喩しているのだ。もちろん日本人にとっては、暗喩というほどのものではないわかりやすいものだが、カレドニアの人の知っている日本はまだまだ単純なイメージばかりなので、そういう意味でも日本が抱える戦争の負の要素を加えておきたかったのである。
さらに詳しく言えば、日本人コミュニティの消滅は、ソメイヨシノのように花弁が一枚一枚舞い散るというよりは、鳥たちが桜が満開のときに、額のところから蜜を直接吸い、そのために花がまるごと落下する様に近い。つまり、もっとも美しい時期の桜が、他者(ここでは鳥)によって、不可抗力に地面に落ちた状態なのである。その有様は、まさに日本人コミュニティが、ヌメアで確固たる地位を得ていたその矢先に、急遽全財産を差し押さえられ、追放されたことに重なる。そして、後に残ったのは、店に残った商品、モノにあふれた裕福な生活、土地家屋、畑に実る農産物、そして家族だった。
桜の可憐な姿を意識的に利用するために、今回は、柳本さん(rimaconaのヴォーカル)に刺繍をつかった手作り桜でアニメーションをつくってもらい、映像作品に使用させてもらった。彼女のつくる桜は、ほんとにセンスがいい。余談だが、彼女は私に桜をモチーフにしたブローチも特別につくってくれた。それを、10年ぶりくらいに着たゆかたの帯留めにして、ニューカレドニア政府主催のパーティで使用させてもらった。
展覧会は、博物館の入場料が200cfpで、地下の企画展示室で開催中だ。ヌメア市の歴史を紹介する展示との連携している。次回は、個々の作品について語りたいと思う。