横浜市繁殖センターに、横浜生まれのカグーがいる。そのカグーの親は、1989年に横浜市制100周年を祝ってニューカレドニア南部州から贈られたオスとメスだった。まもなく、このつがいは、受け入れ先の野毛山動物園で産卵した。残念ながら第一子は育たず、その後生まれたオスは、動物園で生まれた第一号ということで、一般公募で「ベック」という名前が付けられた。ベックは人工飼育で育てられたため、従来警戒心の強いカグーとは異なり人を怖がらない。
先日、22歳になったベックと、ニューカレドニアから新たに送られてきたメス42号(その前に二羽のメスに先立たれている)の間に初めてのヒナが生まれたそうだ。というわけで、現在子育てのために隔離されているベックを見ることはできなかった。
繁殖センターでは、8羽のカグーが、つがいごとに、うっそうとした低木におおわれたゲージの中で飼育されている。ゲージの編み目越しに、カグーが姿を現さないかしばらく覗いていたが、期待は報われなかった。同じゲージには、飛べないカグーと異なり、高い枝上に生息するニューカレドニア固有種、ノトゥー(日本名はオオミカドバト)が入れられていた。ニューカレドニアの森で声だけは何度も聞いたことのあるノトゥーの姿を初めて見た私は、その悠々とした大きさに驚いた。
カグーの飼育担当の方からおもしろい話を聞いた。野性のカグーと違って、飼育されているカグーのくちばしと足の色は彩度が低く、山吹色に近い。本来の色は、熟したパパイヤの実のような濃いオレンジ色だ。原因は餌にあるそうで、鮮明な色素を生み出すカロチノド不足をおぎなうために、オキアミや肉が与えるなど、様々な工夫がされている。
そのような事情がありながら、カグーに「ベック」という名前が付けられたのは興味深い。なぜなら「ベック」はクチバシという意味だからだ。
きめの細かい飼育のご苦労に、頭の下がる思いがした。結局、まだ一度もカグーを見たことがない私だが、ベックの話をたくさん聞き、すっかり親近感がわいている。だから、ベックの子育てが落ち着いた頃に、もう一度訪ねたいと思う。
繁殖センターのSさん、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。また秋に伺います。