大学が企画する「キャンパスが美術館(複数の学内ギャラリーの総称)」を使った展覧会“Mixing Voices”に、5月20日から参加することになりました。この個展に出品するのは新作ではありませんが、「Paradis perdu −失われた楽園の物語−」というタイトルで、戦争によって父親と住み慣れた土地や家を失い、自分の居場所から追い出された経験した人々の想いを、「天国にいちばん近い島」と呼ばれるニューカレドニアにおける楽園喪失と捉えて組みなおしたものです。3月11日の震災以降、このテーマをあらためて強く意識するようになりました。
「失われた楽園」は、私が初めてミッシェル日本国名誉領事からもらった手紙のなかにあった言葉でした。彼女の祖母は、亡くなるまで日本人の夫のいた幸せな時代を懐かしみ、「あれは失われた楽園だった」と繰り返しました。また、ガダルカナル戦で負傷した後、ニューカレドニアに戦争捕虜として収容されていた直木賞作家、豊田穣氏は、「天国にいちばん近い島」と呼ばれていることに驚き、「あれは天国からほど遠い、地獄だった」と著書のなかで触れておられます。
被写体となったいずれの家族も初めて聞き取りをしてからすでに7~8年のおつきあいがあります。今回はポートレート写真とともに、現在までの彼らの(かつ、私自身の)軌跡を短いテキストにして添えたいと思います。写真はどれも初めて、あるいは2回目に会った時に撮影したものです。私はあんまり親しくなると撮影できなくなります。いずれの写真も1〜3時間の聞き取りの後で撮影したものですが、相手のことをまだよく知らない、どこか緊張感が残っているタイミングが好ましいのです。一方、撮影とは異なり、聞き取りは繰り返し今も続けています。特に何人かの素晴らしい語り部の方とは、すでに10数回におよぶ聞き取りを繰り返しています。
今回の展示では、今までの写真・映像作品(再編集中)にくわえ、ここ数年の間に執筆した著作も添えます。特に沖縄県、福島県、熊本県、滋賀県出身の四つの家族に焦点をあて、いろんなメディアを使って、ニューカレドニアの日本人移民とその子孫の現在の様子を紹介したいと思います。そして、私自身と彼らの、「写真」をとおして広がった、多様な関わり方が鑑賞者に伝わることでしょう。
関連企画として、6月19日(日)15時から、会場となるコンテンポラリーギャラリーで、rimaconaがミニコンサートを開催します。展覧会のテーマソング「Parsdis perdu」、熊本の子守唄の音源を使った「さよなら△また来て□」などを演奏してくれます。さらに、福島出身の曾祖父を持つシンシア(日系四世)に捧げる新曲を発表する予定です。2007年以来、久しぶりのコラボレーションは今からとても楽しみです。